私がオーストラリアでドッグトレーナーの勉強をしていたころ、動物保護団体(以降保護団体)で犬を借りてトレーニングをする機会がありました。そこで私は真っ黒で大きくてスリムでとてもパワフルなケルピー×ラブラドールのBarge(バッジ)と出会いました。Bargeは人にはとてもやさしい犬だったのですが、他の犬を見ると攻撃性を示すため、彼が3ヶ月のころ、飼い主が手に余り保護団体に連れてきたとのこと。(実際にはたった3ヶ月の子犬が手に余るほどの攻撃性を見せるとは思えないのでその情報は怪しいのですが)。
私は、勉強はしてはいたものの、攻撃性が実際にどういうものなのかわかっていませんでした。しかしトレーニングを進めていくうちに、Bargeは次第に自分と大体同じサイズ強そうな犬にかかって行こうとしたり、それを防止するために、教えたお座りをさせても激しく目をむいて吠え立てるようになってきました。しかし苦戦錯誤しながらもボスに助けてもらいながら次第にBargeをコントロールできるようになり、見るたびに飛び掛ろうとしていた犬にも次第に関心すら示さないようになってきました。
そしてトレーニング成果の発表日、5m先から綱を付けずにBargeを呼び寄せるエクササイズに挑戦しました。この呼び戻しはトレーニングの中で最も大切で最も難しいものです。なぜかというと犬は抑制される綱がなく、自由に遊べる状態でありながら、それを振り切って飼い主のもとへこなくてはいけないため犬と飼い主との間には高い信用関係が不可欠だからです。バッジは戻ってくるだろうか?他の犬にかかっていかないだろうか?私は不安の中Bargeの名前を呼び、彼は私のもとへ戻ってきたのです。このBargeの変わり様にボスもみんなもビックリ!また、嫌いな相手が近くにいると私の足の間に入ってくつろいだりと、バッジは確実に私を信用し始めていました。ところがこの直後事件が起きました。
バッジを綱なしでトレーニングしていたところ、始めて見た小さな犬に襲いかかり数針を縫う大怪我を負わさせてしまったのです。私はBargeを少し信用しすぎていたことをその時知りました。そしてテキストに書いてあった"犬を擬人化してはいけない"という文を痛感しました。私はBargeが"攻撃することはいけないこと"だと理解したと思っていましたが、現実はただ"あの犬達に攻撃すると怒られる"としか思っていなかったのです。Bargeは貰い手がまったく見つからない上、多頭収容できないため他の犬が入れないということもあり安楽死を余儀なくされました。収容所のマネージャーは、判断はこの事件がきっかけではあるけど前から考えていたことだから私のせいではないと言ってくれましたが私は罪の意識でいっぱいで、せめてBargeが少しでも安心して逝ってくれたらと思いBargeの最後に付き添いました。
私たちはボスとこのことについて話し合ました。そして言えることは、遺伝性の強い攻撃性などの異常を完治させるのは8割無理だろう。そして可能性がある、またはかなり症状を軽減ことができるのは半年未満に去勢をし、最低でも1年未満にしっかりとトレーニングをすべきとのことでした。
このことをHPにのせることは、トレーナーとして働く私に不名誉なことかもしれません。しかし、皆さんに知っておいていただきたいのは、もしもBargeの飼い主が、彼が子犬のころに正しいトレーニングを受けていたら彼は死なず、幸せに暮らせていた可能性が高かったとうことです。
Bargeは少し極端な例かもしれませんが、 犬の問題行動は、年をとればとるほど凝縮され明るみになってきます。そのことは我が家のアイドル、パピヨンの"モモ"で実感しています。そしてそれを直すことはとても大変なことです。私たち人間はつい、子犬は小さくてわがままなところがかわいいと何でも許してしまいがちですが、2、3年後または9年後にその問題行動がはっきりと表面化してきます。一生ワンちゃんを好きでいられるように、子犬のトレーニングはしっかり受けていただきたい、私は精一杯その協力させていただきたいと思います。